昨年開催された、第1回BOOK DAYとやまトークイベント『本をつくること 本屋をつくること』(夏葉社:島田潤一郎 × ライター・編集者:北條一浩)
当日のレポートを、一箱古本市にも出店された東京のますく堂さんよりいただきました。
ありがとうございます!
ますく堂URL http://d.hatena.ne.jp/mask94421139/
6月23日「BOOK DAYとやま」
富山で初となる「一箱古本市」の後、富山市民プラザ4階にて、夏葉社・島田潤一郎氏×北條一浩氏によるトーク・イベント「本をつくること、本屋をつくること」が開催されました。
第1部「本をつくるということ」では、お二人が一緒に作りあげた『冬の本』の話からスタート。最初、無人島に1冊持っていくならどれにするかという企画が持ち上がるも却下。12月に出すということ、装丁は和田誠さん、判型は岩波少年文庫ということだけが決まり、その後、12月ならば冬の本、ということでようやくタイトルが決定したそうです。お二人が面識あるなし関係なく、憧れている方、好きな作家などに、執筆を頼みに頼んだその数や84人! 自分たちが本当に好きな人たちに依頼したので手紙を書く仕事なども苦ではなかったそうです。
そして話題は『冬の本』と発売日が偶然重なった、北條さんの著書『わたしのブックストア』へ。同書は、新刊書店、古書店を区別せず、地域も営業形態も様々な店を取り上げたブックストア・ガイド。セレクト感が強すぎない、雑多感も程よく出ている店を中心にピックアップし、店舗だけでなく店主についても出来るだけ詳しく紹介することを心掛けたそうです。若い人が経営している古本屋は、空間のつくり方が上手いと言われていたのが印象的でした。
続いて話題は夏葉社の新刊『本屋図鑑』へ。47都道府県、必ず1店を取り上げるというルールのもと紹介した本屋の総数約70店!超大型店から小さい店まで、町の中にある書店を中心に取材に行かれたそうです。なかには「何でウチなの?」「お金とるの?」なんて言われたことも。小さい書店の方が断わる場合が多く、ほとんど本がないからと取材拒否する店もあったとか。取材が簡単にはいかなかったことがうかがえます。
その後、町の本屋の現状についての話になりますが、なかなか明るい話題は出てきません。開店に1000万はかかると言われている新刊書店、何とかオープンしたものの3ヶ月後に取次から3000万の請求が来て営業を断念した店。商店街に本屋がないので仕方なく続けていた店主さんたちが、いま店の閉めどきを探っているという現実。村上春樹の新刊本が全然入らない書店の店主が、代官山TSUTAYAに買いに行ったり、Amazonで買ったりしたというエピソードもありました。他所の新刊書店やAmazonで買うということは、定価ゆえに利益はない。人気の新刊本をタワーのように積んで、話題になる店がある一方で、配本さえもない町の本屋が存在するということでした。では今どんな本屋が強いのか?それは町の本屋を10倍の広さにしたような、老若男女、皆が楽しめる、イオンなどの大型モールに入っている本屋ではないかとの見解がありました。
従来型のスタイルの本屋がどんどん姿を消していく一方で、本屋特集を組む雑誌は減らず、本屋の魅力を探している人もまた多い。新刊書店をやるには莫大な資金が必要。それならば古本屋をやろうという人たちが2009年以降、増えているとのこと。そのトークの流れを受けた第2部では主に「本屋をつくること」というテーマで、島田さんと北條さんをMCに、岐阜の徒然舎さん、金沢のオヨヨ書林さん、京都の古書ダンデライオンさんという若手の古書店の店主たちをゲストに迎えます。各店舗のユニークな店構えをスライドで紹介しながら、トークはさらに盛り上がっていきます。
2011年4月に実店舗を開いた徒然舎さんは、ネットでは2009年3月からすでに商いをされていたそう。接客が苦手で、実店舗をやるつもりはなかったとおっしゃいます。実際、お会いしたことのある方はご存知でしょうが、徒然舎さんは人当たりが良く、とても話しやすい雰囲気を持っている方。接客が苦手なんて信じられんと思いつつ、ペンを走らせます。その後、名古屋の一箱古本市に出店された際に、本がすごく売れ、京都の善行堂さんに「店売りのほうが向いてるよ」と、助言されたそう。そして、2010年には“わめぞ”(※東京の早稲田・目白・ 雑司が谷で本に関する仕事をしているグループ)主催の古本市、長野の小布施での古本市に出店し、そろそろ店売りを始めてみようかなという気になったそうです。
引っ越し魔のオヨヨ書林さんは、もうすでに5、6回移転されているというから驚き。東京では国立、神保町、根津、表参道と流れ、そして電撃の東京脱出。「東京はもういいか」と悟りを開かれたのか、金沢へと店舗を移します。「せせらぎ通り」と「タテマチ」の2店舗に加え、さらには上関文庫さんと、「富山市内にもひとつは古本屋がないとね」と酒を呑みながらサクっとノリで決めて、富山市総曲輪に新たな古本屋「ブックエンド」をオープンさせてしまいました。
古書ダンデライオンさんは、2009年から京都市上京区で「町家古本はんのき」を営んでおられます。はんのきは3人の店主が日替わりで店番をしている、ちょっと変わった営業スタイルの古本屋です(2014年現在のメンバーは古書ダンデライオン・古書思いの外・古書ヨダレ)。各店ごとにコーナーを作るのではなく、3店の本を棚に混在させ、スリップで売上げを管理しているそうです。また古い町家をセルフリノベーションしているため、夏はとても暑く、冬はとても寒いとも。
興味深かったのは、徒然舎さんの「テンションが低い状態で居心地の良い場所がほしいと思い、店をやることにした」というコメント。一箱古本市に来るお客さんは、普段より興奮状態であり、しかも常設されていない一期一会のものである。それとは別の場所がほしいと徒然舎さんがおっしゃったのに同調し、「徒然舎さんは居心地の良いお店。いい状態に本をもっていっている」と北條さん。その通りだなと納得でした。
そしてオヨヨ書林さんから「古本屋は駄目な本もないといけない」と含蓄あるお言葉が飛び出たのを機に、古本屋における“セレクト”と“普通”という意味について、トークが展開していきました。積極的にこれを仕入れようというセレクト型ではなく、入ってきた本の中で、「これはやめておこう」という引き算の発想。入ってきた本の中でどれを置き、どれを置かないのか。そういったことを重要視しながら、店作りをされているとのことでした。また徒然舎さんは当初、大都市の名古屋ではなく、なぜ岐阜でやるのかと周囲の人に言われたそうです。しかし「業者が勝手に諦めてるだけで、店がないからお客さんは行けないだけ」とおっしゃっていたのが、心に響きました。
始めるのは何の商売でも簡単で、続けるのが大変。上を見ないことがコツ。
本と本屋をめぐるトークは、感心することばかりの充実した内容で幕を閉じました。